島へ島へと
辺戸岬の奥
沖縄本島の最北端の辺戸岬(へどみさき)は、鋭くそそれ立隆起サンゴ礁の断崖である。サンゴ礁の石灰岩がナイフのように尖ってならんでいて、ゴムゾウリでは歩きにくいことこの上ない。与論島が水平線に望まれる。
沖縄がアメリカ軍政下にあって当時、辺戸岬は本土が見える唯一のところであったのだ。年に一度、沖縄側からと与論島川から船を出し、境界線上の海で集会を持った。そんなことが大々的に報道されたものである。
ヒッチハイクで沖縄をまわっていた私は、辺戸岬にいった。会場集会のある日でもなく、高い山もない与論島は、穏やかな陽の下で波の間に間に浮かんでいるかのように見えた。私が常日頃思い描いている南島のイメージそのものだったのである。
浜から赤土を歩いていると、農作業帰りのトラックに出会った。手を上げると止まってくれ、運転していた男はこれから奥という集落に帰るという。地図で改めて見ると、奥という集落がある。その先があるならいってみようというのが旅の情けであるから、奥という名の集落にいってみることにした。
細かなことは忘れてしまったが、奥は山のゆるい坂を下りたところに開けた小さな集落であったと思う。茅葺きの屋根の家もまだ残っていた。二人で旅をしていた私たちは、トラックの荷台に乗っていた。集落は空と大地との間にはさまっているかのように見えたことを覚えている。