アメリカの万年筆

 

島へ島へと

アメリカの万年筆

沖縄に行けばアメリカ製品が買えた。ウィスキーとか缶詰はそれほど欲しいとは思わなかったが、どうしても欲しいものがひとつだかあった。万年筆である。

パーカー万年筆は当時高嶺の花で、学生の身分ではとても手にはいらなかった。沖縄でも高いことは高いのだが、それでも本土に比べればずいぶん安い。一点豪華主義で、万年筆を一だけは本買いたかった。

その代金はなんとなく準備していたのだが、安いことにこしたことがない。そのために安く売っている万年筆屋を探すことになる。当時のバックパッカーの情報は素早くて正確だった。ユースホテルありで何人かに欲しい情報を尋ねると、ああそれならどこそこへ行けということになる。

記憶が正確ではないのだが、仲宗根万年筆店というのだったか、市場通りに面するあたりに、万年筆専門の小さな店があった。土産屋の一角で万年筆を売っていることはあっても、万年筆しか売っていない店は珍しい。

店に入ると、一見気難しそうな親父がいる。こちらが内地からきた学生で、本当に万年筆を求めてきたのだということはわかると思う。親父は特に親切ということではないが、つっけんどんというのでもない。

「気にいったのがあったら、インクをつけて書いてみたらいいさー」ガラスのショーケースをのぞき込んでいる私に、親父は声かけてくる。万年筆は外見から見ても良し悪しはわかるものでもない。私は手頃の値段の一本を指差す。

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