島へ島へと
基地のフライドチキン-2
「腹が減ったろう」
男は助手席の私にこう尋ねる。私はどのような返事をしたか記憶にない。あるいは本当に空腹で、頷いてしまったのかもしれない。男は口笛をしながらこういった。
「何か食べにいこう」
飛行場に向かっていた車は、軍事施設の手前で折り返す。もっと先へ行くようたとえ私が望んだとしても、かなえられることではなかったろう。
車はコンクリート建ての白大きなビルの前に止まった。クラブハウスであった。ジーパンにゴムゾウリニをはいた私は、明らかに場違いで、おどおどしてしまった。男は善意だけで案内してくれたのかもしれず、東京からきた大学生とまではわからず沖縄の若者を気まぐれに驚かせてやろうとしたのかもしれないのだが、私自身はどうしていいのかわからなかった。
入り口には特に案内もいず、基地にはいれるものなら誰が足を踏み入れてもよさそうであった。内部には薄くジャズが流れ、どこで聞こうと変わりはないのに、ああアメリカだなと私は思った。
「まあ坐れ」
男にいわれて、私はテーブルについた。男は一人でカウンターのほうにいき、盆にのせたフライドチキンとコーラを持ってきてくれた。こう書いてしまえばそれだけのことなのだが、私は実はフライドチキンを食べたのがはじめてだったのだ。世間に出回っているものではなかったのである。うまいものだなぁ、これがアメリカだと、私は感心してしまった。