島へ島へと
思いがけないヒッチハイク
「ベース・カデナにいったことがあるか」「ない」「いきたいか」「ベース・カデナ?」嘉手納基地ではないか。当時は連日連夜北ベトナムのハノイとハイフォンを爆撃するため、B52爆撃機が飛び立つところであった。B52が飛ぶ時の騒音でガラスが割れたり、井戸に油が流れ込んだり、通りからはB52を見ることができないよう基地内に高い土塁が築かれたり、とにかく当時の嘉手納基地は反戦運動の敵として、象徴的な存在であった。その嘉手納基地にはいりたいかとこの男は私を誘ったのである。
罠のようなものではないかと、咄嗟に私は思った。とにかく戦略の重要拠点である嘉手納基地は、東洋一の基地機能を持っていた。北ベトナムの爆撃、すなわち北爆の最前線基地であって、そんなところにヒッチハイクで拾った学生を連れていこうとしてる自体が、どう考えても怪しい。しかし、なんのために私を罠にはめる必要があるのかというと、それもわからない。もし私がここでふっつりと消息を断ったとしても、家族が何か月後かにどうしたのだろうと思うくらいで、誰も気にかけないのだ。
「そうだ、ベースカデナだ。行きたくないのか」
サングラスをかけた男は、車を運転しながら畳かけてくる。東京からきた学生にとっては、こんな機会はない。
「はいるのは可能なのか」
「また出てこられますよね」
私が大真面目でいうと、男は大声で笑いだしたのだった。男はハンドルをそうさしながらもう一方の腕を横に伸ばして、私の肩にかけさえもした。
「お願いします」
私はいった。もうどうなっても仕方ないがないといという思いが、私にはあった。