水争いの現場-2

 

島へ島へと

水争いの現場-2

昭和の終わりのことであったが、中世の時代のの出来事のように私は感じた。田んぼに水がなければ稲が育たないのは当然のととであるにせよ、このようなあからさまな水争いが現実に起きているのだ

「こうしておけば、もうやらんだろうさあ」

田んぼの底に枝を突き立て、畦道のほうに進みながらおじーはいった。水泥棒の顔が、おじーにはありありと見えていたはずである。わずかな水を、島の小さな共同体の中で、プライドも捨てて奪いあう。それはなんだか悲しいことであった。貧しいものが貧しいものから奪うということなのだった。みんな早く田植えをしなければ収穫ができなくなってしまうと、追い詰められたのである。

おじーは心の底から怒っている様子であった。私はおじーの怒りの前で、ただおろおろしていたのであった。トラックに乗り込み、おじーの田んぼから離れていく時、田んぼを見捨てるようで心残りであった。

祖内の集落に向かう道は暗かった。ヘットライトの黄色い明りが、

行くべき道を照らしてくれる。ハンドルを握る私の視界に動くものは何もなかった。「君はゆっくり休みなさい。おじさんは田んぼに寝る。今晩は久しぶりに田んぼに泊まるさー」

おじーは私を下すと、こういってまた田んぼのほうにトラックで戻っていった。水泥棒がまた出現するかもしれず、こうしなければ気がすまなかったのだろう。私は連日慣れぬ砂糖キビ畑の仕事で、体力の限界に直面していた。そんな私へのおじーの心遣いであった。

その晩、蒲団にはいっている私の耳に、激しい雨音が響いてきた。

おじーはトラックの荷台にねているのだろうが、それにしてもどうしているかと気になったことであった。

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