島へ島へと
与那国タイム
私の印象でいえば、本島の沖縄タイムスは決められた時間から一時間遅れ離島の与那国タイムはそれに輪をかけて一時間半遅れという感じである。最近ではずいぶん是正されてきたはずが、ひと昔前までは沖縄タイムスや与那国タイムは当たり前で、そんなことで腹を立てるほうがおかしいというほどであった。
それからしばらくしてから、与那国の人たちが何人か上京してきて、渋谷で会うことになった。私が御馳走することになったのである。待ち合わせ場所は誰のもわかるところがいいということで、忠犬ハチ公の前ということにした。
私は時間通りにいき、十五分もたってから、やられたと思った。東京に戻ってからしばらくしてからだったので、与那国タイムのことを考えていなかったのだ。もし思いついたとしても、私は疑わずに時間通りにいったろう。駅前広場の忠犬ハチ公というのはすさまじいばかりの雑踏であって、あんなところで待たされるのはかなわない。与那国からくれば心細くもなるだろうし、東京にくれば東京のやり方にあわせるはずだと思った。
ところが待てど暮らせど姿を見せず、私は雑踏の中に立ちつづけていたのだ。これが苦痛ではないはずがない。私とすれば、電車に乗り間違えたのだろうか、道に迷っていないだろうか、はたまた約束を忘れているのだろうかと、あれこれ考えてしまった。私のほうで時間を間違えているのかもしれない。雑踏の中をあっちこっち歩いてみて、また忠犬ハチ公のところに戻ってきても、やっぱり姿はないのだった。