ヌードダンサー・-2

 

島へ島へと

ヌードダンサー・-2

「ビアホール清水港」を示す暗号みたいな別のいい方もあったのかもしれない。だがそれは、ビアホールの中にいれば必要はないわけだ。私は同じところにて
いろんな人は入ってきたり出て行ったりするのを、ただ見送っていたのである
ある夜、狭くて暗い通路をウィスキーコークのグラスをのせた盆を持って通ろうとすると、全裸の女が立っていたのでぎょっとしたことがあった。何があっても不思議はないところなのだが、正直、それには驚いた。
やがて、ジュークボックスの曲が変わる。すると、いきなり女は裸足のまま踊り出したのだ。女は自分の曲がはまるのを待っていたのである。それまでは無防備でただ立っていたのに、両肩から長いショールの両端をたらし、それで前を隠しながら、腰をひねって客席の間を踊っていたのだ。二曲が終わると、女はコートを羽織り、通路にそろえてあった靴をはいて外に飛び出していった。ヌードダンサーのかけ持ちをしているのだ。ということは、ほかにもこんな秘密クラブがあるということである。しかも、服をいちいち着たりするひまもないくらいの数の秘密クラブを回っているということだ。もちろん簡単には所在が分からないからこそ、秘密クラブというのである。外は琉球警察とアメリカ軍のMPが二人組になってたえず巡回していた。MPは必ず白人と黒人がコンビを組んでいた。人種問題のからみがあっても、どちらかが対処できる。「ビアホール清水港」にとっては、MPよりも琉球警察のほうが問題だった。もともとアメリカ軍指定のAサインの指定はないのだから、店自体は軍からの罰則はないのだ。
私は店内でボーイをし、時にはカウンターの中にはいってバーテンをし、また時には交代で外の見張りをした。ただ立っているのでは余計目立つから、そこにいるのも難しかった。警察かMPがくると、植木鉢のかげに隠してあるスイッチを切る。ジュークボックスの電源が止まるようになっているのだ。その瞬間、店内は水を打ったようにしずまり返る。それがおもしろくて、何度かただスイッチを切ったりした。

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