水泥棒

 

島へ島へと

水泥棒

大嵩のオジーが泡盛を飲んでいつも通り早く床につき、私もそろそろ寝ようかと思っている頃に、電話がはいった。おばーは電話口で少し話してから、おじーを起こしてきた。はじめは半分は眠っていたおじーは、受話器を置くと妙にしゃっきっとして私にいった。
「これから田んぼにいく。水が盗まれているらしい」それからのおじーの働きは早かった。すぐに納屋のほうにいって野良着に着換え、私も負けないように準備をした。鎌や斧など一セットを荷台にほうり込み、一トントラックのハンドルは私が持った。
祖内の街は暗かった。夜の十時頃なのだが、砂糖キビ刈りの季節なのでみんな寝静まっている。ヘットライトが当たると、珊瑚礁石灰岩の垣根が燃え上がるように見える。静かな集落の中で、エンジン音がやかましく感じられた。夜になるとあっちこっちの家こっちの家と泡盛を飲んでまわるにせよ、集落内は歩いていけるので、こんなに遅い時刻に車を運転したことはなかった。
その年は雨が足りず、旱魃気味で、砂糖キビも細かった。重量が思ったように出なかったのである。雨不足の一番の問題は田んぼに水がないために、田植えができないことであった。与那国は小さな島なので灌漑施設が充分ではなく、田んぼは天水頼みであった。朝起きて、晴れ渡った青空をあおいでは、溜息をついてきたのだ。

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