天上の旅

 

島へ島へと

天上の旅

みんなしなければならないことがあり、先を急いでいるので、飛行機の席がこちらになかなかまわってこなかった。待ってよ、ようやく石垣空港から与那国に飛ぶことができた。

当時は十九人乗りの飛行機で、頭を引っ込めるようにしなければ通路も歩くことができない。シートベルトに身体を縛り付けこの頼りない飛行機に命かな何からなにまですべて預けることになると、何とも不安な感じがした。座席のポケットに、このあたりの島の地図を描いた下敷きが入っていた。席に上がると、その地図と実際に眼下に望まれる島の形とを照合しながらいくことがある。

滑走路をすべっていった機体が、ふわりと浮き上がる。エンジンの音さえなかったから、自分の力で空を飛んでいるような気にさえなる。まず窓の外に見えるのは石垣島の山並みで、砂糖キビ畑も広がっている。畑で刈り取りの作業をする人も認められる。

海岸から海に行くと、世界一とも称される珊瑚礁の海の上にいる。美しいものの上空に浮かんで、私は幸福な気持ちになるのである。かつての舟人は、風を読み太陽や星の位置を探り、波の形を確かめながら進んでいった。眼下一帯の大海原に視線をこらすと、古人の帆をいっぱいに張って帆走する舟が、波の間い間に見えるような気がする。

小型飛行機は高度が低く、海に近いので、風景の微細なところまでよく見える。海の彼方にある与那国島は、この海を渡っていった遥かな他界にあるのだと感じた。その後私は何度も与那国島に行くことになるが、こうして美しい境界線を越え、夢を見るようにして他界へと旅立っていくような気分にそのたびなるのであった。この世ならぬ美しいところなのである。

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