島へ島へと
ハーバーライトホテル-2
私は旅人でで弱い立場だから、寝袋よりごそごそとはいだして男の前に立つ。襲われたらどうやって逃げようかなどと、私は胸の中で考えている。
「それじゃこれから酒を飲みにいきましょうね。沖縄にきて、泡盛も飲まないで、こんなところに寝ていたらいかんでしょう」
思わぬ展開に私も驚いてしまい、いこうかいかまいか悩んでいる。ぐずぐずしている私に、男はいう。
「そんなもの、誰もとらんでしょう。よほど大切なものは持って、あとはそのままにしていったらいいさあ」
そのとおりにして私は男のあとをついていくのだ。沖縄が日本に復帰する前のことで、沖縄と日本の一般の人がそれほど交流をしていたわけではなかった。私のようなヤマントチューが、沖縄の人に少し珍しかった時代である。お互いを呼び合うような気持で、興味を持っていた。タクシーに乗り、たぶん桜坂あたりにいったと思うのだが、はっきりしない。ネオンのついた店にはいり、ピンクの照明に照らされたカウンターについた。若くはない女が一人カウンターにいて、徳利で猪口に泡盛をついでくれた。一見怪しそうだったが、照明が妙なだけで、怪しいところはまったくない。それでも私は慣れていなかったので、ドキドキしてしまった。
男はタクシーで泊港に落としてくれ、私は寝袋に入って眠った。このようなことは、何度も体験した。あの親切さは、沖縄を旅して今でも感じることだ。
後年、私は泊にできた大きなホテルに宿泊した。窓から外を見ると、たまらないほどに懐かしい泊港があった。水銀灯に照らされている港を、ガードマンが歩き回っていた。野宿をしようとしたら、たちまち追い立てられるだろう。
私のハーバーライトホテルは、消えてしまったのだ。
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