苦しい船旅-2

 

島へ島へと

苦しい船旅-2

故郷を離れて東京に遊学し、まだ二年目である。旅に出たという気分はあったが、吹きくる風に誘われても身も世もなく身体を動かしてしまうというような強いものでもなかった。なんとなく南に行きたい。その場に自分を置き、皮膚と血がどのような作用をすゆのか感じてみたい。そして、もしかすると遠い先祖たちの故郷として感じられるかもしれない沖縄が、アメリカ軍の統治化にあり、ベトナム戦争の火を受けるかもしれないのだ。実際、嘉手納基地からはB52戦闘爆撃機が北ベトナムのハノイやハイフォンに爆撃にいっていたから、ベトナムに報復されても仕方ない立場にあったのだ。若い私の内部は混沌とした感情が渦巻いていた。社会の影響を受けてもいた。

東京湾を出航する船旅は、未知への不安と船酔いとで苦しいものであった。二泊三日ほど、三等のすえた臭気のする船室で、他人の体臭の染み着いた湿った毛布にくるまり、じっとしていた。立ち上がると、伊の奥から酸ぽいものが込み上がってくる。それまで気分は悪くなかったのに、トイレに行こうと立ち上がった瞬間、一気に嘔吐感に襲われる。

横たわっていても波の乗って持ち上がっていき、登りつめたところでほうり出されるようにしてふわっと落ちる。これを際限なく繰り返すので、胃の中は空っぽで疲れ切っているはずなのに、頭が冴えて眠れない。

沖縄の旅は、苦しいものであった。

それでも沖縄に行きたかった。

 

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