島へ島へと
ビアホール清水港
西武門の交番にある交差点からひとつ波の上神宮のほうにいったはすかい角に、「ビアホール清水港」と書かれた店があった。ビアホールとはっきり書かれてあるし、清水港だし、アメリカ兵たちが遊びに来るような店とはとても思えなかった。
昼間の歓楽街は、もちろんネオンの輝きではなく、妙に淋しいものである。夜になれば眩しいほどの光を放つネオン管は、まるで乾いた骨のようだ。太陽の光ばかりが照りつけて、亜熱帯のもの憂い雰囲気が漂う。私ははじめていったところであるから、夜の輝きなどはとても想像できないものであった。
入ろうか入るまいか迷った。周囲にはネオンの大きな看板に飾られたナイトクラブがならんでいた。ベトナムから休暇で一時帰休しているアメリカ兵たち、これから泥沼のベトナムの戦場に送り込まれる兵士たちが、夜毎に大騒ぎするところである。そんな派手なクラブと、ビアホールと、どちらを選ぼうかというのか。
私はビアホールのほうが穏やかでいいと思ったのである。アメリカ兵は身体もでかいし、腕に入墨をしているし、気持ちがすさんでいるだろうし、恐ろしい気がした。
私はビアホールの中にはいっていってた。案外内部は広くて、がらんとしていた。長いカウンターがあり、ソファが向き合ってならべられその間にテーブルが置かれたボックスシートが十ほどもある。中は暗くて、黴のにおいがした。確かにビアホールと看板がでているのに、ビアホールらしい明るさがない。