島へ島へと
ビアホール清水港-2
行こうか戻ろうか、絶えず私は考えてた。どのみち私には未知の世界である。路銀は本当になくなり、今夜の食事にも事欠く有様になっていた。今日中に潜り込める場所を見つけなければ、にっちもさっちもいかないのである。迷っている余裕などなかった。私は薄暗がりに向かって大声をだした。
「ごめんください。どなたかおられますか」
声は店の奥に吸い込まれていった。また私が声をだそうとした時、大声が響いてきたのだった。
「おおう」
腹の出た小太りの男が、パンツ一枚で現れた。目がくりくりして、可愛いような感じの男だった。私は気持ちの上で押されまいと精神を立て直す。
「仕事を探しているんです。使ってもらえませんか」
とうとう私はいったのだった。いってしまった以上、どんな解答をもらっても仕方がない。
「いいよ、今夜からこられるか」
あまりにも簡単に決まったので、私は拍子抜けだった。
「はい」
「よし、決まり。一日一ドルだ。それでいやだったら、帰ってもらう」
男のものいいには決然としてして、交渉の余地はなさそうだった。一日一ドルといえば、日当三百六十円である。これはいかにも安い。あとでわかったのだが、若い公務員の給料は月に三十ドルほどで、そこから割り出したのである。でも安いといっても、私はもう金がないのだから、これで了解するより仕方がなかった。
「わかりました。よろしくお願いします」
私はこういって頭をさげた。